米電気自動車メーカーテスラが2月8日に手元資金の8%に相当する15億ドルでビットコインを購入しました。これを契機に今後、同じようにビットコインに投資する企業が増えるとの見方が出ました。しかし本当に企業によるビットコイン投資は加速するのでしょうか。
2月8日にテスラ社がビットコイン(BTC)購入を発表したあとにビットコイン価格は高騰しました。その終値は前日の1BTC=3万8799ドルに対して4万6373ドルとなったのです。その後もビットコイン価格は上昇を続け、3月13日時点で5万9411ドルとなっています。
このビットコイン投資によりテスラ社は"実質的に"4億ドルほどの含み益を手にしたことになります。
ほかに北欧と香港の企業もビットコインやイーサリアム(ETH)を購入しており、北米以外の企業にも仮想通貨投資が拡大するとみられています。
ビットコインの価格上昇は2020年10月頃から加速し、12月に入りその勢いは増しています。ただし2021年1月半ばと2月後半には大きく値下がりする場面もみられています。
しかしこのような価格変動の大きさは投資対象としては大きなリスクにもなりうるものです。
企業財務において優先すべきは、バランスシートの安全と流動性の確保であるという考え方があります。バランスシート(貸借対照表)は企業の財務を資産・負債・純資産からみるものです。
ビットコインをはじめとする仮想通貨は値動きのボラティリティ(価格変動率)が大きく、資産に組み込んだ場合には企業の時価評価を大きく変動させる可能性があります。
仮想通貨を投資目的で企業が購入した場合、その会計処理に関する課題も指摘されています。というのも、通貨としては認められていない仮想通貨に関して、会計処理のルールが明確に定められていないからです。
日本では企業会計基準委員会(ASBJ)が2018年3月に「資金決済法における仮想通貨の会計処理等に関する当面の取扱い」というルールを発表しています。ただしこれはあくまでも、暫定的なものでしかありません。
ここでは仮想通貨を期末に時価で評価して貸借対照表に計上し、差額を「純額表示」として損益計算書に計上するとしています。
これは外貨建取引における為替差益・為替差損と同じ扱いであることを意味します。具体的には、仮想通貨は利益と損失を通算処理するということです。
通常の会計処理における「総額表示」(利益と損失を相殺せずに資産と負債を明確にする)としないことで、仮想通貨相場におけるリスクを明確にするという目的も含まれるものとなっています。
一方でアメリカの米国財務会計基準審議会(FASB)ではまだ、仮想通貨を対象とした会計処理の指針はまだ用意していません。ただし米国公認会計士協会(AICPA)が2019年12月に「Accounting for and Auditing of Digital Assets(デジタルアセットの会計と監査)」というガイダンスを発表しています。
ここでは仮想通貨を「無形資産」として扱うと明記しています。無形資産とは知的財産や「のれん」といった、通常はブランド認識などに用いられるものです。
日本の会計処理と大きく異なるのは、仮想通貨を"時価評価しない"ということです。
これは何を意味するかというと、購入したビットコインが値上がりしても評価益は計上しないということになります。逆に値下がりした場合には減損処理をします。具体的には購入した仮想通貨の簿価切り下げを行い、"売却するまでは"その評価額は修正できません。つまり会計上では企業評価を下げることにつながるということです。
このルールにより、企業がビットコインなど仮想通貨を投資目的で購入することは、会計上のリスクを抱えることになると考えられます。
仮想通貨における会計処理のルールにより、アメリカでは投資目的の購入は企業評価を下げるリスクが発生します。またビットコインのように大きく値上がりしていても、その値上がり分は財務に反映させることができません。そのため米国企業において投資目的での仮想通貨購入が拡大するかどうかは不透明と言えます。
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